Journal

ー 石とわたし ー

暮らしを豊かにするトルマリンの魅力を
様々な視点から紐解きます

プラスとマイナスを内包する稀有な鉱物

地球科学コミュニケーター/ 地学博士/ 写真家
渡邉 克晃

Interview&Text : Mako Matsuoka
Photographs : Yu Inohara

2024.09.12

幼少期に川原に転がる石に魅せられて、大学では鉱物学を専攻し、鉱物や土ができる過程を研究。現在はそのメカニズムをわかりやすく伝える地球科学コミュニケーターとして活動している渡邉克晃さん。フォトグラファーとしての顔も持ち、山に赴いては鉱石やさまざまな地質風景を撮影しています。時には採掘の旅に出ることも!そんな鉱物のエキスパートにトルマリンのすごさを教えていただきました。

ーTシャツにも石がプリントされていますね。

渡邊:はい。広島県の帝釈峡(たいしゃくきょう)で撮影したものです。僕の研究対象は磨かれた宝石ではなく、ありのままの姿のものになります。キラキラした世界とは縁遠く生きてきています(笑)。

石の外見と機能性、それぞれの魅力とは

ー20年近く鉱物と向き合われている渡邉さんに、あらゆる角度からトルマリンについて教えていただきたいです。まずはこの石の魅力からお話しいただけますか。

渡邉:観賞用として魅力的なポイントと、機能面の長所は別物と考えています。前者で人の心を掴むのはやっぱり色の美しさですね。ここにある標本を見ていただくとわかりやすいかもしれません。透明感のある青や緑をしていますよね。また、結晶の形もスタイリッシュでかっこいい。

ー機能面の個性はどういったところにあるのでしょうか?

渡邉:まず、ホウ素という元素が含まれている点です。ホウ素を含む鉱物は、すごく珍しい。ちなみにホウ素はカメラのレンズなど高級ガラスの添加物として使われる成分です。また、トルマリンは硬度が7〜7.5と高くもあります。これは水晶や人間の歯のエナメル質よりも高い数値なんですよ。だから、宝石として用いられているのです。あと、研磨剤入りの洗剤がありますが、そのような研磨剤としてもトルマリンは活用できると思います。ブライトティーはその特性を活かしているのではないでしょうか。トルマリンの粉で歯の表面を磨いていくようなイメージです。

トルマリンは石の中でも特異性が高い

ーおっしゃる通りです。研磨剤の成分としてケイ酸・ケイ酸アルミニウムを記載してあります。

渡邉:なるほど。では次に、トルマリンの最大の特徴ともいえるスペックを解説しますね。もしかしたら、ブライトティーにも何らかの形で応用されているところかもしれません。日本語で電気石と呼ばれるように、トルマリンは帯電(分極)しています。石の両端がプラス極とマイナス極になっており、加熱や力を加えることによって微弱な電流が発生することが知られているのです。この性質を「焦電性」とか「圧電性」と呼びます。これは粉末になっても変わりません。ただ、トルマリンに導線をつないだら豆電球が点灯するかというと、そうではない。あくまで微弱な電流です。

ーなぜ電流が流れるのでしょう?

渡邉:トルマリンは電池のように電気を蓄えているというわけではありません。先ほども申し上げたように、トルマリンの両端はプラス極とマイナス極に分かれています。これを分極といい、自然な状態で分極していることが、トルマリンに見られる特徴的な性質です。ちなみにほかの石やほとんどの絶縁体(電気を通さないもの)は、電線の近くに置くなどしないと分極しません。さらに金属ではすぐさま電気が流れるので、プラスとマイナスに分かれることもないです。トルマリンは、大気中のカチオン(プラスのイオン)はマイナス極に、アニオン(マイナスのイオン)はプラス極にくっつけます。そこに熱を加えると、プラスとマイナスを帯びた状態が少し弱くなる。そうすると、これまでマイナス極に付着していたカチオン(プラスのイオン)と、プラス極に付着していたアニオン(マイナスのイオン)が離れていきます。放出されたプラスとマイナスの電荷を帯びたイオンによって電気が流れているのです。これって意外じゃないですか?

ーはい。トルマリンの中に電気を発生させる物質があると思っていました。

渡邉:ですよね。でも、そうではなくて、大気中にあるカチオン(プラスのイオン)や、アニオン(マイナスのイオン)の働きによるものなんですよ。補足となりますけれど、マイナスイオンは定義があいまいな和製英語で、学術的に通用するのはアニオン(陰イオン)またはネガティブイオン(負イオン)です。

まさに、神秘の結晶

ーそもそもトルマリンはどうやってできるのですか?

渡邉:日本にもたくさん存在する岩石の1種に花崗岩があります。これは大陸を作るマグマが地下で冷え固まってできた岩石なんですね。花崗岩の元になるマグマには、5%ほどの水が含まれています。温度が下がってマグマが徐々に固まっていく過程で、まだやわらかい部分には水が濃縮されていきます。そして、最終的に水の割合が多すぎて岩石になれない部分が空洞として残る。その空洞はさまざまなミネラルが溶け込んだ液体の水や水蒸気で満たされていて、そのような場所でトルマリンは作られるのです。

ー産地としてはブラジルやスリランカが有名です。日本でも採れるのでしょうか?

渡邉:はい。ブラジルやスリランカと同じく、日本も花崗岩が多いエリアです。最終段階の空洞をペグマタイトと呼ぶのですが、それもたくさんあります。

ー他のジュエリーも採れるとよく耳にします。

渡邉:そうですね。ブラジルではミナス・ジェライス州が宝庫のようです。また、スリランカはダイヤモンド以外の宝石はほぼ見つかるらしいですね。

ーミナス・ジュライスってジュエリーと語感が似ていますね。ちなみにトルマリンは火山活動が盛んな場所にできるものなのですか?

渡邉:おもな生成過程として、マグマが固まって花崗岩ができるときにできる鉱物なので、基本的にはその通りです。ただし、熱や圧力によって元々の岩石が変化して、別の岩石(変成岩)になるときにも、トルマリンは生まれます。だから、火山活動がなかったとしても地殻変動の影響で形成されるケースもあります。

ー長い年月をかけてできあがったところと、機能面から、地球の神秘を感じました。ありがとうございました。

Profile

KATSUAKI WATANABE 渡邉 克晃

1980年三重県四日市市生まれ。広島大学にて博士(理学)の学位を取得。物質・材料研究機構(NIMS)研究員、東京大学地球生命圏科学グループ研究員、原子力規制庁技術基盤グループ技術研究調査官を経て、2020年よりサイエンスコミュニケーション事業を開始。2024年より株式会社地学舎代表取締役。もっとも好きな鉱石はラブラドライト。

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