Journal

ー 石とわたし ー

暮らしを豊かにするトルマリンの魅力を
様々な視点から紐解きます

自然の産物と相対するうちに
ものづくりの感覚が研ぎ澄まされてきた

デザイナー
武笠 綾子

Interview&Text : Mako Matsuoka
Photographs : Yu Inohara

2024.09.17

鉱石や植物といった森羅万象をモチーフに、センシュアルな服とセミオーダーの天然石ジュエリーを手掛ける武笠綾子さん。何万年もの時をかけて生み出された自然の美に圧倒されたことで、クリエイターとして舵を切ります。アパレルフブラントド〈THINGS THAT MATTER〉のクリエイティブディレクターと並行し、ファッションでは〈mukasa〉を、ジュエリーでは〈±BALANCE〉を立ち上げたのです。2022年から3つの軸でクリエイションをする彼女のアトリエを訪ねました。

自然はクリエイションの着想源

ー 最新コレクションでは広島県福山市の藍を用いるなど、生産者と顔の見える付き合いをされている姿も印象的です。そもそも武笠さんが自然からインスピレーションを得るようになったきっかけを教えていただけますか?

武笠:出産とコロナ禍がきっかけです。それまでは建築やアートからインスパイアを受けることが多かったです。でも、2020年に「自分とは何ぞや?」と向き合う日々を過ごすなかで、太陽や月など当たり前に存在するもののありがたさに気づいたんです。同時に「生かされている」という感覚が湧き上がってきて。

ー 畏敬の念を抱かれたわけですね。

武笠:はい。身の周りのもの全てが愛おしくなりました。その前から鉱石の唯一無二な色合いや重ねてきた年月に美しさを感じていたものです。自分の世界に対する見方が変わったことで、その思いはさらに強くなりました。私が生まれるよりもずっと前からの蓄積が地層や石になっているという、神秘に興味が湧いたんです。そういうものが身近で触れられるといいな、ジュエリーにしたいなぁって。

ー そうして〈±BALANCE〉をスタートさせた。鉱石が持つパワーを感じることもあるのでしょうか?

武笠:パワーストーンのケアの一つに、石にレイキを流すと波動を感じられるようになるという方法があります。実は私はそれでエネルギーをすごく察知するというわけではないんです。というよりも、自分のフィルターを通してビビッときたものを選んでいますね。だからセレクトを見ると、その時の私のムードが如実に反映されているかも(笑)。ちなみに〈±BALANCE〉ではカウンセリングを通してジュエリーを製作します。そこでは私の推しの天然石をおすすめするのではなく、お客さまに気になるものをチョイスいただいています。カッティング次第で輝きが増す鉱石もあるので、加工の技術も大事。私は山梨にある工場にお願いをすることが多いです。

ー 〈THINGS THAT MATTER〉ではピンクトルマリンを染料に使ったアンダーウエアも発表されていました。

武笠:ありがたいことに、植物や鉱物の「気」も一緒に染料にする試みをされている職人の方とつながって。エビデンスがあるわけではないですけれど、下着や洋服はまとうことでその人のエネルギーになると思っています。少しでも心が豊かになるといいなぁという期待を込めて、肌ともっとも距離が近いショーツをはじめ枕カバーやパジャマなどパーソナルなアイテムを作ることにしました。「女性性をアップさせる」というテーマでピンクトルマリンと芍薬で染めたんです。ほかにも「クリアリング」シリーズがあり、これは水晶と日本酒のペアなど4種類のアイテムがあります。発表までに2年ほど時間がかかりましたね。

湧き上がる感覚を大切にする

ー ものづくりと真摯に向き合う姿に頭が下がります。自然物を創作の中心に据えることで武笠さん自身にはどんな変化がありましたか?

武笠:直感に従うようになりました。これまでは「デザイナーとはこうあるべき」といった固定観念があって、頭でデザインをしている部分があったんです。鉱石や植物をテーマにしているうちに、ガチガチに固まった意識がやわらいでいきました。コレクションのテーマを決めすぎずに余白を残しておく。そして気になるものやコトに対しては「まずはやってみる」というふうになりました。今季でいうと藍はまさにそれです。興味が湧いた瞬間からいろんな情報が入るようになって、広島の生産者の方とつながりました。そうして産地の広島を訪れて、さらに帰りに寄った瀬戸内海の豊島美術館でユングの展示を観ていたところに女性における男性性、男性における女性性を指す「アニマ・アニムス」というキーワードから新しい刺激を受けました。コレクションに向けて3〜4ヶ月ものあいだ自分の中で蓄積していたものが一気につながったんです。流れることで自分が求めていたものに巡り合えました。

ー 五感をフル活用して吸収したものをみごとにデザインへと昇華されています。ちなみに武笠さんはかねてよりブライトティーも愛用されているそうですね。

武笠:そうなんです。ピンクトルマリンと塩のコンビで歯の表面がツルツルになるし、磨いた後に浄化された!という気分を味わえるので。ほかのを使えなくなっています。また、ピンクトルマリンだけでなく、歯ブラシにはクリスタルを含んでいるという共通点にも縁を感じたものです。だから〈THINGS THAT MATTER〉のポップアップイベントで紹介したこともありました。

Profile

Ryoko Mukasa 武笠 綾子

2016年から〈STAIR〉のデザイナーを務め、2017年には東京都新人デザイナーファッション大賞 を受賞。2021年SSをもって退任。アパレルブランド〈THINGS THAT MATTER〉のクリエイティブディレクターとなる。さらに翌年、〈mukasa〉と〈±BALANCE〉を始動する。最新コレクションやジュエリーをオーダーする完全予約制サロン「HOUSE917」も主宰。

Shop info

HOUSE917

東京都世田谷区等々力

Instagram

@mukasa__official

@balance__jewelry

※完全予約制、いずれかのInstagramアカウントから問い合わせを。

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